同じ靴を履いてる

生活について

佐々木中と樹海村と鉱物

朝起きると長袖のトレーナーが肘の上まで、ズボンの裾がふくらはぎの付け根くらいまで捲れ上がっている。上着の方は寝ている最中、自分で捲った可能性が高いと思われるのだが、ズボンの裾はどうだろう。こういう朝がよくある。つか毎日だ。寝相が悪いのだろうか。あるいは布団が重たすぎるのか。リブ付きの裾に締め付けられ血流が悪くなっている感じがして気持ちよくない。たぶん僕だけではないはずで、ネットで検索すればすぐ同じような境遇の人間に出会えるのだろうし、その対策案を得られるであろうこともわかるのだが、そうしないという選択肢もある。いろいろと調べて対策し捲れあがらない朝を迎えるより、何かの偶然でたまさか捲れ上がらない朝を迎える方が、幸福度が高い感じがするから。

街コン、のような男女集まって飲みに行きましょうというイベントに参加している。吉祥寺駅近辺の会議室のような場所に集められ、その場でグループ分けされて、歩いて目的地である飲み屋を目指す。僕らのグループは男女合わせて4人。男女2対2。パートナーである男性が、佐々木中だった。駅向こうにある目的地でまで歩いている途中、彼、佐々木中にファンであることを打ち明ける。話を途中で遮られ、微笑みながら「それ以上言わなくて良いですよ」と握手してくれた。

『切り取れ、あの祈る手を』を読んで、すごく刺激的で、それこそ、あの本を読む以前以降で読書に対する姿勢が変わったというか、本を読むと言うことの歓びに目覚めました、といったような旨の感想を漏らすと、少し間をあけて「以前以降でね、体験そのものの質が変わるなんてことはないんですよ、あなたはもともと、そういう歓びを知っていたのです」と言われ、ちょっと何言ってんのかよくわからなかったのだけど嫌われたくないので、「なるほど、もともと内に、あったということなんですね」と相手の言葉をそのままなぞるだけの意味なしのリアクションをしたら、それなりに好意的な反応が返ってきた。

しばらく二人で話しながら歩く。執筆に関して問い、色々と話している最中、「あなたもいつか、何か書けるといいですねえ」と、濡れた瞳で遠くを見ながら言い、「そう、夜を鳴らす音の静けさのように」と続けたのを聴いて、つい反射的に「だっせえなオイ」と笑いながらつっこんでしまった。

その反応がよくなかったのか、吉祥寺駅に着いたところで「俺、これから自転車の空気を入れなければいけないんで、先行っててください」と言われいったん別れた。「僕も自転車に空気入れるの好きです!」と何に気を遣っているのかよくわからない返事をしたら彼、笑ってくれていた。

目的地である居酒屋とバーの中間くらいの感じの飲み屋で彼が来るのを待っていたが一向に来る気配がなく、ああやっぱ、怒ってたんだなあ。怒るよなあ。そう思いながら目を覚したら上着は肘まで捲れ、ズボンはふくらはぎまで捲れ上がっていた。そんな土曜日。

午前中から映画を観に。村シリーズとしてシリーズ化させるつもりらしい、『犬鳴村』からの続編『樹海村』。『犬鳴村』がそんなにでもなかったので期待はしていなかったものの、ホラーと名がつけばとりあえず観に行こうとは思っているので、まあ一応くらいの気持ちで向かったらこれが結構いい映画。いわゆる世間が求めている風のジャパニーズホラーとはだいぶ方向性が違うものの、どこまでもジャパニーズ・ホラーって言う。やっぱりホラーは観に行っとくものよなあ、つって。家に帰っていろいろと。夜には酒を飲んで、ようやく『若おかみは小学生!』を観たり。評判通りの傑作。

森喜朗の発言を巡って世間は大騒ぎしている。昔はなりたい職業ランキング等で政治家が上位に来ることもあったと聞くが、昨今の状況を見たら子供、ぜったい政治家なんかなりたいとは思わないだろうな。近い将来「鉱物」とかがランクインするんじゃないか。これは鉱物を差別している発言だろうか。だとしたら謝罪します。

さて、日曜日。時刻は8時前。今日はまた随分と気温が上がるらしい。どこかへ行って散歩でもしたい気分。嘘みたいに穏やか。