同じ靴を履いてる

生活について

髪型と現金と宇宙

髪、サッパリさせてえよなって、ここ4年くらい通っているキュービーハウスに毛が生えたような、いや散髪を行う場所に毛が生えたような表現ってどうなんでっしゃろ、でお馴染みの、洗髪やドライ等の工程を省くことでローコストを実現している美容室へ行こうじゃないかと土曜の夜。毎回いつもと同じでを繰り返しているのだけど、もうそろそろ暑くなって来たし、いつもよりサッパリ、スッキリさせたいなと思う一方、あんまり刈り込みすぎてしまうのもアレよな、後頭部あたりにはちょっと立体感をもたせたいんだよな、という気持ちもあり、とはいえ髪型に関する語彙が恐ろしいほどに乏しいことに加え、もう4年も通っているというのにいまだ髪を切られるということに対して妙な恥ずかしさがあるので、髪型を伝えるのにもしどろもどろ、緊張からか異常に発汗し、その発汗に対する申し訳なさと恥ずかしさとで余計に発汗するという負のスパイラルに陥ること請け合いなのだが、かといって一発でこちらの希望が伝わるであろう写真を出すことにも抵抗があるというか、いやお前ごときがこのモデルの如き良い感じの雰囲気になるわけがなかろうと嗤われているのではないかという自意識過剰っぷりからそうすることもできず、しかしオイお前いつまでそんなこと言ってんだ甘ったれんじゃねえ、誰もそんなことを思わないしお前なんかに興味もねえよ馬鹿がと鼓舞、そうして前日の夜にこんな感じの髪型にしたいよなの画像を保存、それを持って本日、勇んでその地へ向かう。順番が回って来て、今日は髪型を変えたいのですけどと切り出し、こんな感じでと携帯を見せようとしたのだけど、急にそれが恥ずかしくなってしまい口頭の説明を試みたものの全然伝わっていない感じで、引きつった目をしたマスク姿の自分と、いぶかしそうな目をした同じくマスク姿の店員が二人並んでいるのを見たことを最後に記憶がない。なんで写真出さないんだ? 馬鹿か? つか、格好つけてねえか。逆に。お前逆に格好つけてるだろオイ。わかってるんだぞお前の手口は。ちゃんとしろ。ちゃんとしろよマジで。って、何だかうまく噛み砕いてくれたのか、当初したかった感じの髪型ではないものの、これはこれでいい感じっていうか、ずいぶんスッキリしたし、ねえ。お礼を言って外に出る。まだ雨は降っていない。

先週5月5日にクレジットカードが停止されてから1週間程度、カードに紐づいているパスモクイックペイといった電子マネーも使用できなくなり、久しぶりにしっかり現金を持ち歩く生活を送った。当初はメチャクチャ不便だなあと思っていたが、1週間もあれば慣れるもの。そうは言っても再発行されたカードがようやく届き、携帯に登録し、改札を携帯でピッと抜けたり、近所のコンビニに携帯だけ持って物を買いに行ける生活に戻った時は、ようやく日常が帰って来た感覚になった。生活のレベルを一度上げると、そこから落とすのは難しいというが、一度手に入れた利便性もまた、今回のような不可抗力がない限り手放すのは難しいよなと思わせられる。一方で、現金での生活を久々に送ったことで気づかされることもあった。近所のコンビニに買い物に行った際、トレーに千円札を乗せ会計して頂き、その釣銭を受け取ろうと手を差し出したのだがコロナ禍、トレーに小銭が置かれてスッつって、差し出した自分の右手が哀愁を帯びちゃったりして。差し出した右手とトレーに置かれた小銭の距離の中に、ここ一年くらいの望まない自粛の全てが詰まっているような宇宙を見たり見なかったり。見て、ないか。見てないです。そんなに大きな話じゃなかったわ。ただ、哀しみが横たわっていた。哀しい宇宙が広がっていた。

朝まで遊んで、なんだか優しくなっちゃって街を徘徊してから家に帰り、このまま眠るのもったいねえなと思いながら結局疲れて眠る、そういうのがしたい。コロナ禍以前だってそんなに頻繁にやっていたわけではないけど、そういう眠りが妙に恋しかったりする。長いこと抑制されているからだろうか。サンダルも買ったし、散髪もしたし、いつだって夏、大丈夫。