同じ靴を履いてる

生活について

クリスマスとヤスリと物語

朝、iPhoneのガラスがしんと冷えている。それに手の甲で触れて、冷たいなあと当たり前の感想を漏らす。朝の日差しが遮光カーテンの隙間から毛布を照らしている。子供の声のような音を聞いた気がするが、車の走る音だったかもしれない。

年末特有の慌ただしさもなく、ただクリスマスに色づく街をみている。サンタクロースはコロナウイルスに罹らないとWHOが発表している。よかった。とてもつめたい風が吹いている。ポケットに手を突っ込んで歩いている。人が少ない通りでマスクを外して空気をいっぱいに吸い込む。冬の風の匂いがした。あれから僕たちは何かを信じてこれたかな。何かを信じてきた森くんがオートの日本選手権で優勝し、何かを信じてきたSMAPは散り散りで活動を続けている。ベンチに座り立つ。公園の池の水に触れ、その冷たさに触れたことを後悔する。目的もなく乗る電車。行くあてもなく出す脚。出来るだけ賑わいの方へ、しかしなるべく人がいないところへ。何かをしたかった気がするのだが、何をしたかったのか思い出せない。何もなかったのかもしれない。酒を飲んでしまう。悪いことをしている感覚はない。酒を飲むことは悪いことではないから。

遠くへ行きたいという漠然とした欲求がある。しかし、近所のホームセンターで少し良いヤスリを買う程度のことで満足できることかもしれない。物理的な距離として遠くへ行きたいというより、生活に飛距離を出したいだけなのだろうか。俺はとても、恵まれている。

本を読みたいのだなと気づいた。そういえばしばらく読書をしていない。物語に飢えているのだ。家の目の前にはブックオフがあるし、数分歩けば本屋も図書館もある。家から出なくてもKindleがある。iPhoneには青空文庫が入っている。そういえば、世の中は物語にあふれていたのだった。満たされない感覚なんていうものは幻で、何も注いでいない自分を改めればいい。俺はもっと水差しを持とう。左手にはグラスを持って、それが酒だろうが、泥水だろうが。テキーラを飲ませて人を殺す社長がいる。アタシ、怒ってます。だから物語を飲みます。飲むんなら物語。テキーラより物語。ゴリラよりコブラ。猛毒刑事コブラ