同じ靴を履いてる

生活について

笑いと酒の席と荒野

俺は俺を面白い人間だと思っている。面白い人間でなければならないと思っている。面白い人間として人に受け入れて頂くため、何とか人を笑わそうとその隙を狙っている。今これを言ったらウケるのではないか。ここであれをやったらウケるのではないか。そのようにして人とコミュニケーションを図ってきた。そのようにすることでしか人とコミュニケーションを図る術をしらないから。人を笑わせるように仕掛け、その仕掛けに人が笑い、俺はその笑いの中に許可を受け取る。お前この場に居て良し。お前の存在を認可致しますの許可を。俺はシャイだ。どうしようもなく照れ屋だ。何をするにも何をしている自分を意識してしまい、何でこんなことをしているのだの舞を舞っている。だからキャラを作り上げていく。そのキャラの中で笑いを仕掛けている。俺という人間はこうあるべきのキャラを作りそれを演じることで、愚かを行う勇気を得ている。そのように恥ずかしい自分を嗤ってほしいと思う反面、嗤ってくれるなと思う気持ちもある。頑張っているのだから。戦っているのだから。急に不機嫌になったりする。メチャクチャ面倒臭い奴である。

ところが、近頃自分が面白くないのではないかと考えている。つか、完璧に面白くない。厳密に言えば面白くないというより、人を笑わせる能力に長けていない、足りていない、乏しい事を認めざるを得なくなってきている。そう言ったほうが正しい。要するに俺寒いんじゃないか。そのように考えている。そのような確信を持ち始めている。人を笑わせる事を他者とのコミュニケーションおいて最大のツールとしてきた俺にとってこれは由々しき事態である。

酒の席での模様を翌日聞かされた事がキッカケだった。覚えている範囲で、俺はよく喋っていた。よく喋っていることに対する反省は酒を飲み合った翌日の常であるが、それでもそれなりに。60点程度の話をヘラヘラしながら喋っていた記憶があり、それはそれで悪くはないように思っていた。喋りで笑いを取ろうという姿勢が残っているうちは、それでもまだマシな状態である。それにしても酔いが回っていたらしい。酩酊の足音を聞くこともなく、気付いた時には着の身着のままでベッドに突っ伏しており、呻きながら眼を覚ますと朝だった。何事もなかったような顔をして出社し昼食時、昨日同席していた人間から、現場での愚行を知らされた。二軒目に向かう間、ドナツを食いたいという提案をしたこと。そうして入ったミスタードナツにてドナツを頼まず、コーヒーだけを頼んでいたこと。他人が頼んだドナツに対して滅茶苦茶ガムシロップを掛けてヘラへラしていたこと。云々。いずれもまったく面白くない。面白くなりようがないことを展開し続けている。酒を飲んで良い気持ちになり、自分が面白いと思ったことをおそらくはその時になりに正直に実行した結果がこう。ドナツにガムシロップを掛けると言う行為も、それをやったら面白いからそうした筈で、その結論を出した自分に嫌気が差す。いやでも全然、楽しかったですよと笑う。何を笑っているのだと思う。何が楽しかったのだと思う。全然地獄だろ。実り無き荒野だろ。本当に申し訳なかったと謝罪する。しかしその謝罪も全く面白くない。終わりだ何もかも。お前はハッキリとつまらない。

普通にコミュニケーションを取り、その中で少しちょっと可笑しなことを述べ、はははと微笑んで、それじゃあつって金を払い、電車に乗って帰る。そうやって、出来るのだろうか。ひとまずは自分が人を笑わせられるような人間ではないことを自覚して生活を営む。その地点から考え直さなければならない。