同じ靴を履いてる

生活について

アートとアニマルとカツ丼

思ったより酒が残っていた。ハイボールを3杯だけだったのだが、ずいぶん濃く作ってしまったのか、そもそもグラスが大きすぎるのか。あるいは安酒が特有の作用かもしれない。胃が痛く、若干の嘔吐きもあったので、このままトイレでぶちまけてもよかったのだけど、日曜日の開幕がそんなんじゃいけないよと我慢。晴れている。東向きの小窓からの陽射しがソファーを照らし、暖めている。どこへ行くかも決めず、何となく身支度をする。といっても着替えるだけ。寝巻きがわりのTシャツを脱いでTシャツを着る。靴下が破れる寸前ギリギリのところ。今日で最後、引退だな。イヤホンを耳にさしとりあえず外に出る。まあ、末広町かな。久しぶりにアートギャラリーなんか行っちゃろうかしら。二日酔いだし。二日酔いにはアート。男は黙ってアート。

まだ9時をまわった頃で、日曜天国が始まるまでは音楽。ガランとした車内にウインドクライミングが流れる。なんだか、どうにもならい今日が続いているなと思う。それでも、どうにもならい今日はせめて、笑い話にかえられますように、平坦な道じゃきっとつまらない、君と生きてくあしただから這い上がるくらいでちょうどいい、はぁ〜、とても幸せなのに、いま、とても幸せなのに涙が込み上げてくるような感傷がある。はてその正体は。もう次の曲だし、もう次の駅だし。そうやって丸ノ内線赤坂見附で銀座線に乗り換えて末広町、3331 Arts Chiyoda。建物の眼前が公園のようなひらかれたスペースになっているのだが、全ベンチに浮浪者が寝そべっているという逆七福神の集いのような有様で、いやしかしすべて衆生には仏性が宿るなどという話もあるし、これはこれで善き哉、善き哉、それにしても仏たちの間を縫うようにして建物に入る間、意識的に呼吸を止めている私の方が浅ましい人間なのではないか。いいんだ。私はアートを見るから。そうして胃の痛みを止めるから。

ところがどうして時間が早過ぎたせいかすべてのギャラリースペースやアーティスティックな品物を扱うショップの類いが締め切られており、館内をぐるり回ったのちアートに触れることが出来ないまま外に出る羽目になった。同じように仏の間を縫うようにして施設をあとにする。こまった。アートを確認しないことには胃の痛みは消えそうにないが、この街でしばらく時間を潰すというのも気乗りせず、じゃあもう散歩か。散歩しつつ、アートを探すか。

そうやって北上し上野を目指す。そういえば今月、上野動物園でパンダの展示エリアがリニューアルされたという話を思い出し、アートがダメならアニマル。そもそも生物に勝るアートはないのだから、アニマルを鑑賞するということは同時にアートを鑑賞するということにもならないか。二日酔いにはアニマル。男は黙ってアニマル。御徒町を通り抜け上野に到着、まっすぐに上野動物園を目指す。

ところがどうしてコロナウイルス対策の影響か、入場者数を制限しているらしく、事前の整理券予約が必要で、本日の受付はすでに終了してしまっているとのこと。こまった。アートもダメ、アニマルもダメ、もう私には何も許されていないのか。本日もどうにもならい今日か。しかしここは上野。美術館、博物館が集結しているのだから、どこかへ入ればとりあえずアートは補給できるのであるが、どうにも気乗りしない。何故ならば、若干腹が減ってきたからである。胃が痛いときこそ逆に重たい飯を食う。そのような荒療治が、功を奏することはこれまでも何度となく経験している。そしたらもうあれか、肉か。それも衣が付いている類の、カツか。お誂え向けにかつや。二日酔いにはカツ丼。男は黙ってカツ丼。

ところがどうして半分ほど食べ進めたところで心のせんちゃんが「胃もたれしちゃうよ〜」と困り顔でこちらを向いているのが見えた。途中何度か箸を止め、無言で斜め上の空間を意味もなく見つめる時間はあったが、なんとかそれを腹に収め切り、腹ごなしに散歩。それにしても後悔。余計気持ち悪いし、とんでもなく眠い。平坦な道じゃきっとつまらないと言っても、こういう感じの這い上がり方と違うわけ。もうちょっとこう、派手さがないと。

さて家に戻って来て。結局胃薬を飲んで随分楽になったりして。クーラーをつけるほど暑くもなく、網戸に扇風機で十分の気候。雨が降りそうな淀んだ空。湿気は依然として高いけれど、いよいよ来週末くらいから秋めいてくるとのこと。朝起きたままのくしゃくしゃの布団をいったん正して、キッチンマジックリンを買ったので、油汚れを綺麗にしよう。どうにもならない今日だけど。