同じ靴を履いてる

生活について

ワインと胃痛と意志の弱い人間

ワインを空けて明けた朝。胃がぎゅうぎゅうに締め付けられているように痛む。ラクになりたいからという理由で太田胃散を水で流し込む。しばらくすると猛烈な嘔吐感に襲われてトイレまで間に合わないので流しに吐く。薄く太田胃散の色をした液体は清々しいほど無臭で、幾分涙目になって肩で息をしている。月曜の朝からなんでこんなことになってるんだよ、そう思ってすぐ、それはお前が酒を飲むからだろうと自答する。そういう朝を迎えるたび、もう酒は飲まねえと声に出して虚空に宣誓するものだけど、その日の夕方にはその宣誓を反故にしようとしてしまっている。正確に言えば反故にしてしまっているという自覚や罪悪感すらない、ただ「それはそれとして」くらいの場面展開でまたしてもコンビニにスーパーマーケットに、本日飲む酒を求めに行ってしまう。最近は電子マネーも携帯に内蔵されちゃっているから、財布を持って外に出なくてもよくていいよなあ、なんつって本日禁酒を宣言したのと同じ虚空に語りかけている。

というのが以前。それで成り立つ生活なら、それはそれで別に問題はなかった。ところがなんだ、加齢によるものなのだろうか、明らかに酒の残り方が以前とは変わってきている。飲める量自体はコンディションによって左右されるものだが、そこまで以前から変化はないように思う。宿酔といえば以前は多量の飲酒が祟って割れるように頭が痛むであるとか、強烈な喉の渇きを覚えるとか、嘔吐感が続くであるとか、そのような症状であったのだが、ここ最近は比較的少量の酒であっても翌日、必ず胃が痛むようになってしまった。もちろん以前からそのような宿酔の症状も認められてはいたのだが、それはよっぽど飲みすぎた際、頭痛や嘔吐感の副次的なものとして存在していた気がする。

昨日は750mlのワイン1本。飲酒量として少なくはないのだろうが、暴飲といった量ではない。無論これはひとそれぞれのキャパシティーがあるので個人的なブレも大きいが、例えば僕でいえば結構酒を飲んでいた時期だとボトル2本分を毎日飲んでいたもので、それで頭ぼうっとしながらも毎朝7時には起床し電車に揺られ社屋に通っていたのだから、ワイン1本くらいであればそこまで日常に支障を来すほどの量ではない、はずなのだが結果的には太田胃散汁をシンクにゲロしてしまっている。飲みすぎの代償としてこめかみと後頭部に鉄球を押し付けられるが如き痛みが発生するのは仕方ないという気はするが、ここ最近は大した量を飲んでいないのに取り敢えず飲酒には胃痛がともなうという感じで、昨日はワイン1本で嘔吐まで行ったものの、たとえば缶ビール500mlをひとつに350mlの7%チューハイひとつ、その程度でも嘔吐までには至らないにせよ明らかに酒が残っている感のある胃の痛みの内に目を覚ますような有様。

じゃあ止めればいい。それはまったくその通りで、実際に昨年は体重を絞るという大義名分のもと、1ヶ月程度は完全に酒を絶ち、その後2ヶ月ほども週末だけ嗜むくらいの付き合い方をしていた。実によかった。金輪際酒を止すといった類の禁酒ではなかったためかもしれないが、禁酒は全然ツラいものでも大層なものでもなく、気軽に、簡単にできるものだということを知った。じゃあもう一回やりゃあいいじゃん。その通り。でもできんのだよな、今は。

ダイエット、禁煙、禁酒。この辺りは一通り経験している。そしてそのいずれも成功を収めている。今は太ってきているし、電子煙草とは言え吸っているし、酒だって全然やめられていないのだけど、一時的に3ヶ月程度それらを実行して成果をあげているのだから成功だと思っている。意志が弱いから暴食してリバウンドしてしまった、意志が弱いから人から貰った1本がキッカケで喫煙が再び習慣化してしまった、意志が弱いから飲み会を断れず結果的に大酒を飲んでしまった、そのように失敗してしまう人は大勢いるだろうし、その度に惨めな思いをする人もいるのだと思うのだけど大丈夫、意志が弱いというより単純にタイミングが合わなかっただけですよ。ダイエットと、禁酒と、禁煙と、タイミングが。僕自身、ダイエットを始めた時はメシを食うことに飽きていたから食事量を減らすこと自体何ら苦痛もなかったし、禁煙にしても禁酒にしても同様、別にそれが無くってもいいな、という気持ちにさえ切り替わればもう意志とか関係なくやめちゃうもので。だからダイエットをよしたキッカケも久しぶりに外で食したラーメンが美味しかったから、じゃあこれを我慢する必要はないわと感じたからで、煙草にしても酒にしてもそう。それが一般に意志が弱いから誘惑に負けたヤツになることも知っている。そもそもその考え方自体どうなんだっていう。人間、基本的に必要のないものをわざわざ金払ってまで得ようとはしないですよ。だから誘惑があるうちは、ある程度その誘惑に従っていた方が精神的にも楽なんじゃないかと思います。無論これは外食に行ったり嗜好品を買える程度の経済力があり、特別医師からの強い抑制がない状態に限って、という話ではあるけれど。無理に我慢して却って身体や精神を壊してしまったり、失敗を繰り返す内に不必要に自信喪失したりするよりはよっぽど良いと思うんですけどどうでしょう。意志が弱い人間の戯言に聞こえますか。そうかもしれない。そうかもしれないけど、たぶん世の中の大半は意志の弱い人間で、あなたのように克己心の強い強靭な精神を有したお方が稀有なのだ。誉と思ってください。そして光り輝いている栄光のサクセスに向かって邁進してください。幸あれ。幸あってくれ。

僕はまだ酒を飲みながら見るバラエティー番組や、酩酊の中YouTubeで見る懐かしのアニソンが必要な精神らしい。今朝の反省が活きている今日の今日、改めて酒を買いに行くかは微妙なところだが、結局その果てが胃痛だとしてもまだ、じゃあ止めてみようとは思わないんだから酒っていうのは怖いものよ。「痩せた方がいいな」「煙草やめたほうがいいな」「酒はよしたほうがいいな」という気持ちを頭の片隅に置いて、ただその時期が来るのを待つのです。それに飽きるまで。意志の強弱関係なしに。