同じ靴を履いてる

生活について

松岡茉優とうがいの手法と否定しない態度

外出自粛要請が敷かれて二度目の週末。4月5日の日曜日。松岡茉優のラジオが始まる。俺は松岡茉優のファンだ。『桐島、部活やめるってよ』で見せつけるようにキスをするシーンでその人を認知し、『ちはやふる』の圧倒的ラスボス感でこの女優凄いなと感心し、その後の『勝手に震えてろ』『万引き家族』『蜜蜂と遠雷』『ひとよ』では一言で凄いと褒めることすら憚られるような芝居を見せつけられ、しかしその凄さ故に凄いとしか語りようの得ない凄みがあって、だから凄いファンなのです。凄い松岡茉優の。

そういえばそろそろ番組改編の時期か〜なんてTBSラジオのホームページを閲覧したところMISIA真空ジェシカと並んで松岡茉優のラジオが始まることを知り「ほっ」と言った。「ほっ」と言った後、心持ち上を向いて息を吸って吐いた。放送時間を見ると12時からとあり日曜天国の後枠。聴きやすい時間でありがたい。さらに画面をスクロールしていくと、12時半からは松本穂香のラジオもスタートすると知り「へぇ」と半笑いで数回頷いた。松本穂香もとてもいい女優なのだけれど、松岡茉優には「ほっ」と中空を向けさせられ、松本穂香には「へぇ」と頷かされた。この差。この差がファンかどうか。お前さっきからずっと気持ち悪いぞ。あとこういう文章を書くとき、本当は女優の名前のあとに「さん」をつけたくて仕方がないのだけど、業界の人間でもない俺が「さん」付けするのもどうなのっていう気持ちもあって、あえて敬称を省いて記載してます。お前さっきからずっと気持ち悪いぞ。

日曜天国が終わり、龍角散の5分番組を挟んだ後、お茶を淹れる音とともに番組が始まる。松岡茉優のマチネのまえに。舞台用語で「マチネ」(昼公演の時間)の前、心にも時間にもゆとりがあるときに、ちょっとだけ日常が豊かになる「知恵」や溜まった「愚痴」を一緒に井戸端トークしながらシェアしましょう、と番組説明欄にはある。だから一緒にお茶でも飲みながらごゆるりと、などと。

番組構成は30分松岡茉優のフリートーク。日常がちょっと豊かになる知恵に当たる部分として、松岡茉優が最近実行しているうがいの手法を紹介していた。曰く、うがいは5、6回するのが良いとのこと。さらに、なんでも4回目くらいから喉の中で水が回る感じが変わってくるとのことで、3回目まではゴボゴボゴボ系なのに対して4回目以降はガラガラガラ系に変化し、喉の水回りが軽やかになるらしい。そしてガラガラペを5、6回行った後、クチュクチュペをすると良いとの知恵。新型コロナウイルスが蔓延している昨今、ありがたい情報提供。その他、初回ということもあり自己紹介が中心。俳優をやらせていただいております、という言葉が印象的だった。番組中何回か俳優という言葉を使っていたが一度も自分のことを女優と称さないことに、ポリシーなり、矜持のようなものがあるのかもしれない。お前さっきからずっと気持ち悪いぞ。

溜まった愚痴に当たるパートもあった。趣味探しのため習い事の体験授業によく出席するらしいのだが、先般参加した授業にて何をやっても否定してくる先生に当たったらしく、気持ちが非常に落ちたとのことで、まずは一旦相手を受け止める心の余裕を持ちたいものですねと締める。そうそうその通りだ思う一方、身につまされている。 

東京都が週末の外出自粛要請を出した3月25日、会社の上司に飲みに誘われた。断るに断りきれず、仕方なく餃子の王将でビール等の愚行をした。上司二人、昨年新卒で入社した後輩と俺の四人。酔いが回った上司が後輩に彼女の写真を見せろと迫り、仕方なく見せた写真をぜんぜん可愛くないやんけと言ってゲラゲラ笑う上司を見て頭に血が登ってしまい、いくらなんでもそれは失礼じゃないですかという俺の声のトーンが思いの外マジな感じで入ってしまったので、それを取り繕うように意味もなく笑ってみたりしていた翌日、また同じ上司から飲みに誘われたため今度こそはの気持ちでコロナの影響もありますんで今日のところはと伝えると、お前が気を使ってても俺がコロナになったら終わりやでと笑っていた。俺はこいつを否定せず、相手を受け止める心の余裕を持って接することができるのか。ヘラヘラして誤魔化すのではなく真正面から受け止めることができるのか。彼女の写真をいじられた後輩は笑って応答していたが、おいお前本当か。お前、松岡茉優か。いやそういうことではないのか。

ラジオでもテレビでもネットでも、絵を描いたり料理をしたり編み物をしたり染み抜きをしたり、なんでもいい、極力外出することは止めて家にいた方がいい。いまだに満員電車で会社に行かなくてはいけないリスクを背負っている人は多くいるが、それ以上にリスクを高める必要はない。大阪杯負けました。